交通事故で歩行者が車にはねられた場合に、ギブスや副木による固定だけでは完治が期待できない複雑骨折など重傷を負うことがあります。その際の治療法として、骨折や脱臼の部位をボルトで固定することは珍しくありません。

ボルトを入れる手術を行った場合の慰謝料はどのように算定されるのでしょうか?また、ボルトを入れた後どのような注意が必要でしょうか?交通事故で負傷してボルトを入れた場合の慰謝料について説明します。


治療にボルトが必要となる負傷とはどんなものがあるのか?

交通事故で歩行者が自動車に轢かれて上腕骨・脛骨・大腿骨を単純骨折した場合など、骨折部分を金属製のボルトで留めて癒着するのを待つという治療法があります。特に歩行者が自動車に撥ねられる場合には、フロントのバンパー部分が被害者の脛骨に直撃して骨折させるケースが珍しくありません。

右左折の巻き込みの際にも自転車に乗った人の足の上にタイヤが乗り上げてしまい、大腿骨を骨折させる事故が多発しています。こうした事故で完全に折れてしまった骨を整復するには、ボルトで固定するのが一番有効な方法と言えるでしょう。

また、胸を正面から強打した場合には鎖骨が折れやすくなっていますが、鎖骨が折れずに肩鎖関節脱臼になることがあります。肩鎖関節脱臼とは、鎖骨と肩の骨を繋ぐ靭帯が骨ごと剥がれてしまう剥離骨折の一種で、鎖骨が不安定になってしまいます。

こうした場合にも、剥離した骨片をステンレス・チタンなどの金属性ボルトで留めて回復を待つ方法を採ります。いずれにしても、麻酔して患部の皮膚を手術で切開してボルトを骨に捻じ込まなければなりません。骨が自然治癒力により固定したら、再び手術をしてボルトを抜くことになります。

ボルトを入れる手術を受けた場合に請求できる入通院慰謝料の内容

交通事故の被害者が加害者に対して請求できる慰謝料には、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料という2種類があります。入通院慰謝料は入院・治療費用の他に生じる負傷が原因の精神的損害をカバーするものです。加害者は治療開始から治療が完了した時点までの入通院慰謝料を支払わなければなりません。

したがって、治療が完了した時点の決め方が重要になります。治療が完了した時点について、ボルトを外す時とするか、それともボルトを入れたままで症状固定した時点を指すのかによって、支給額も大きく変動するからです。

ボルトを抜く手術の予定があるなら抜釘まで治療は完了したとは言えないので、たとえボルトを入れたまま寛解に至っても抜釘の手術まで入通院慰謝料の請求ができると言えるでしょう。一方、ボルトを抜く手術をせずに治療の完了とする予定であれば、主治医から症状固定の診断を受けた時点までしか入通院慰謝料の請求権が発生しません。

ボルトを抜く予定が無いのに、ボルトが体内に存在する期間中ずっと入通院慰謝料を請求し続けることは認められないのです。

ボルトを入れる手術を受けた場合に請求できる後遺障害慰謝料の内容

入通院慰謝料の受給権が消滅した後は、後遺障害慰謝料の請求ができるかどうかという段階に移行することになります。後遺障害慰謝料は、治療の完了後も残る後遺症に対する慰謝料として支払われます。ボルトを入れる手術を行った場合には、ボルトを外した後も残る痛み・痺れ・動作の不具合などを補償するものです。

また、ボルトを外せないまま症状固定の状態に至った場合なども、ボルトを入れた状態で生じる痛み・痺れ・動作の不具合などに対する慰謝料として被害者は請求することができます。


入通院慰謝料の算定基準について

入通院慰謝料の算定基準は一律ではなく、自賠責基準・任意保険基準・裁判基準の3つの基準によって算定額が異なります。自賠責とは、自動車の所有者に加入が義務付けられた強制加入保険のことです。自賠責保険に加入しなければ車検を通すことができません。

自賠責基準による入通院慰謝料の支払いが認められるのは、入院・治療費等を含めた損害賠償額が120万円を超えないケースに限られています。自賠責基準が認められる場合には、治療日数に4,200円を乗じた入通院慰謝料が支払われることになっています。

自賠責基準の入通院慰謝料が認められる治療日数とは、治療期間と実治療日数の2倍のいずれか短い方を指します。交通事故に遭ってボルトを入れるような手術を施した場合には、入院日数が1ヶ月以上、さらにその後の通院日数が3ヶ月を超えることが多く、損害賠償総額が120万円以内に収まるケースは稀だと言えるでしょう。

したがって、ボルトを入れる大怪我をしたほとんどの場合には、自賠責基準ではなく任意保険基準か裁判基準を適用することになります。任意保険基準は、自賠責保険で補償できない120万円を超える分をカバーするため民間の保険会社が使用する入通院慰謝料の算定基準です。

この基準は保険会社によって異なり公表もされていないため、統一された算定基準というものが存在しません。利潤追求の民間会社である以上、被害者への支払額をできる限り下げようとする傾向があると言えるでしょう。後述する裁判基準よりもかなり低額で、裁判基準の50パーセント以下になってしまうことが珍しくありません。

裁判基準とはその名の通り判例に従って定められた算定基準で、3つの基準のうち最も高額の入通院慰謝料が認められることになります。裁判基準は弁護士基準とも呼ばれ、加害者側の任意保険会社の示す基準に対して、被害者側の弁護士が求める高額の入通院慰謝料の基準となるのです。

ただし、被害者は裁判で弁護士基準の入通院慰謝料を請求しても、そのままの金額が認められるとは限りません。個別具体的に事情を考慮して額の増減が行われることが多いと言えるでしょう。

後遺障害慰謝料の算定基準について

後遺障害慰謝料の算定基準は、後遺症の程度によって額の高低が決められています。後遺症の程度は、14段階の後遺障害の等級というランク付けがされています。1級が一番重く14級が最も軽い後遺症を示すように、軽い後遺症ほど等級の数字が大きく後遺障害慰謝料の額は低くなるのです。

後遺障害の等級も入通院慰謝料と同様に、自賠責基準・任意保険基準・裁判基準という3つの基準によって異なる額が提示されます。裁判基準の後遺障害等級の場合、最も重い後遺症の1級は2,800万円の後遺障害慰謝料を認め、一番軽い14級では110万円を提示しています。

同じ等級が認定されたとしても、任意保険基準では裁判基準の半額程度に抑えられることが少なくありません。ボルトを入れるような手術を受けた場合、骨の癒着が上手くいかずに後遺障害が残る確率は低くないでしょう。圧迫骨折や粉砕骨折などが生じる重大事故では、骨だけでなく周囲の筋肉組織・血管・神経まで損傷していることが多く、後遺障害が残る可能性を否定できません。

特に、ボルトを入れたまま生活することになった場合には、ボルト周辺の不具合が生じることが珍しくないので、後遺障害の等級認定の申請をする必要があるでしょう。